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はしのした
橋の下
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,189 字 · 25 页
一
一
練り馬場と呼ばれるその広い草原は、城下から北へ二十町あまりいったところにある。原の北から西は森と丘につづき、東辺に伊鹿野川が流れている。城主が在国のときは、年にいちどそこで武者押をするため、練り馬場と呼ばれるようになったと伝えられている。
いま一人の若侍が、その草原へはいって来た。月は落ちてしまって見えない、空はいちめんの星であるが、あたりはまだまっ暗で、原の南東にある源心寺の森がひどく遠く、ぼんやりと、墨でぼかしたようにかすんでいた。
「少し早かったな」とその若侍は呟いた、「しかしもうすぐ明けてくるだろう」
彼は周囲を眺め、空を見あげた。年は二十四五歳で、眼鼻だちのきりっとした顔が、寒さのためであろうか、仮面のように硬ばって白く、無表情にみえた。彼は東の空を見やり、それから首を振った。
「いや、そんな筈はない」と彼は呟いた、口は殆んど動かず、誰かほかの者が呟くように聞えた、「間違える筈はない、たしかに七つの鐘を聞いて起きたのだ、たしかに七つだった」
彼は自分をおちつかせようとして、腹に力をいれた。そしてゆっくりと、往ったり来たりし始めた。きっちりとはいた草鞋の下で、冰った土や枯草がみしみしときしみ、そこから寒さがはいあがってきた。