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はしのした
橋の下
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,189 字 · 25 页
家で聞いた刻の鐘が七つだと思ったが、それではあれは八つ(午前二時)だったのか、と彼は思った。空のもようでみても、いま七つが正しいらしい。約束の六つ半まではたっぷり三時間ちかくある。ばかな間違いをした、あがっていたんだな、と彼は思った。
「どうしよう」寒さのためにふるえながら、彼は自分に問いかけた、「帰って出直すわけにもいかない、そうはできない、といって、ここにこうしていれば躯が凍えてしまう」
彼は舌打ちをし、両手の指を揉んだり、擦りあわせたりしながら、川のほうへと足を向けた。自分がどっちへ歩いているのかも知らず、川の岸まで来てようやく気がつき、おどろいて立停った。――伊鹿野川は冬になると水が少なくなる。幅三十間ばかりの川が、半ば以上も干いて、広くなった河原を、細く二た条に分れた水が、うねうねと蛇行しているのだが、いまはそれも冰っており、星明りの下でかすかに白く、いかにも冷たげに見えていた。
岸のところで立停った彼は、なにかに眼をひかれてふと右の、川上のほうへ振向いた。およそ三十間ばかり先に、焚火の火らしいものが小さく見えた。そのちらちらする火が彼の眼をとらえたのであろう、彼はちょっと躊っていたが、すぐにそちらへ向って歩きだした。