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きかい
機械
横光 利一
「改造 第十二卷第九號」1930(昭和5)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,553 字 · 41 页
私は初めはひやひやしながら黙って軽部の饒舌っていることを聞いていたのだがしまいには私は私で誰がどんな仕事の秘密を知ろうと知らせるだけ良いのではないかと思い出し、それからはもう屋敷への警戒もしないことに定めてしまったが、すべて秘密というものはその部分に働く者の慢心から洩れるのだと気がついたのはそのときの何よりの私の収穫であったであろう。それにしても軽部がそんなにうまく秘密を饒舌ったのも彼のそのときの調子に乗った慢心だけではない、確に彼にそんなにも饒舌らせた屋敷の風が軽部の心をそのとき浮き上らせてしまったのにちがいないのだ。屋敷の眼光は鋭いがそれが柔ぐと相手の心を分裂させてしまう不思議な魅力を持っているのである。その彼の魅力は絶えず私へも言葉をいう度に迫って来るのだが何にせよ私はあまりに急がしくて朝早くから瓦斯で熱した真鍮へ漆を塗りつけては乾かしたり重クロムサンアンモニアで塗りつめた金属板を日光に曝して感光させたりアニリンをかけてみたり、その他バーニングから炭とぎからアモアピカルから断裁までくるくる廻ってし続けねばならぬので屋敷の魅力も何もあったものではないのである。