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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
次郎は、それであわてて事務室のほうにいそいだ。
かれは、事務室にはいっていって自分の机のまえに腰をおろすと、急に、立聞きをしたり、あわてて逃げだしたりした自分のみじめさが省みられて、さびしかった。それは、変にいらいらしたさびしさだった。しだいに腹もたって来た。いつもなら、ごく気軽に、いまのことを朝倉先生に報告するところだったが、――そして今日の場合、とくべつその必要が感じられていたはずなのだったが――なぜか、かれは、いつまでも机の上にほおづえをついたまま、動こうとしなかった。
それでも、七時になると、かれは元気よく立ちあがって、廊下の板木を打ち、そのまま広間にはいって行った。夜の懇談会がはじまる時刻だったのである。
みんなが集まると、朝倉先生のつぎの言葉で懇談会がはじまった。
「では、これから、いよいよおたがいの共同生活の具体的な設計にとりかかりたいと思う。それには、まず、各室で話しあった結果をいちおう報告してもらって、それを手がかりに相談をすすめることにしたい。どの室からでもいいから、遠慮なく発表してくれたまえ。」
塾生たちは、しかし、そう言われても、おたがいに顔を見合わせるだけで、だれも口をきこうとするものがなかった。