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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
開塾後は、食事は朝昼晩、塾生といっしょに本館でとることになっていたので、台所は四畳半の縁先に下屋をおろして当分間に合わせることになっていた。
引越し荷物は決して多いほうではなかったが、それでも、この手ぜまな家にはどうにも納まりかねた。本だけでも相当だった。本館ができあがると、そこに先生専用の室が予定されていたし、また物置きになるような部屋も当然できるはずだったので、何とか始末のしようもあったが、それまでは極度に不便をしのぶほかなかった。で、結局、四畳半と玄関とは当分物置きに使うことにし、八畳一間を三人の共用にした。その結果、ひる間は一つの卓を囲んで食事もし、本も読み、事務もとり、夜は卓を縁側に出して三人の寝床をのべるといったぐあいであった。次郎は、先生夫妻に対してすまないという気で一ぱいになりながらも、心の奥底では、それが楽しくてならないのだった。里子時代に、乳母の家族と狭くるしい一室で暮らしていたころの光景までが、おりおりかれの眼に浮かんでいたのである。
引越しがすんだあとでも、先生はとかく外出がちだった。おもな用件は、講師陣の編成とか、助手や炊事夫その他の使用人の物色とかいうことにあったらしく、帰ってくるとその人選難をかこつことがしばしばだった。