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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

「私に言わせると、それは、君らに、ほんとうの意味で自分をたいせつにする心がないからなのだ。言いかえると、君らには、自分で自分をたいせつにする自主性というものがまるでない。さらに言いかえると、君らは多数をたのみ、多数のかげにかくれて、何よりもたいせつな自分の良心を眠らせることに平気な人間なのだ。私は、現在の日本人の大多数がもっている最大の弱点を、君らの今朝の起床の様子でまざまざと見せつけられたような気がして、全く、暗然とならざるを得なかったのだ。――」

次郎は、朝倉先生が、開塾最初の朝の訓話で、これほど激しい言葉をつかって、真正面から塾生たちに非難をあびせかけたのを、これまでにきいた覚えがなかった。かれは、まだあとに残されている自分への非難が、どんな言葉で表現されるかを、身がちぢまる思いで待っていた。

「君らのそうした非良心的な態度は、君ら自身をますます非良心的にするばかりではない。それがある限度をこすと、ついには、愛情と忍耐とをもって、君らの良心を力づけようと努力している人の心までをきずつけ、その愛情と忍耐とを、憎しみと怒りとに代えてしまうものだ。