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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

それが、かつては、次郎に道江を平凡な女だと思わせた一つの理由だったが、今はまるでちがった感じだった。素直さが、そのまま知性的に高められて、この上もない美しい品格を作っているように思われたのである。かれは、その感じが深まるにつれ、恭一が上京以来しばしば、かの女のためにいろいろの本を選択して送ってやっていたことを思い出し、これまでに覚えたことのない、異様なねたましさを覚えたのだった。

朝倉夫人は、話の途中で、みんなの昼飯の用意をするために、本館の炊事場のほうに行ったが、行きがけに次郎に言った。

「これからどんなお話がでるか、よく覚えていてくださいよ。あとできかしていただきますから。」

次郎には、夫人のそんな言葉までが、何かとくべつの意味があるような気がして、平気では受け答えができないのだった。

そのあと、話は主として朝倉先生と恭一との間にとりかわされた。道江は、女の話相手を失って、口を出す機会が自然に少なくなったのである。次郎は、そうなると、いよいよ気がつまり、舌がこわばった。

道江は、朝倉先生と恭一とが話している間に、たびたび次郎の顔を見て、何か話しかけたいような様子を見せた。