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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
と、いったんはあきらめたようにそう思うのだったが、しかし、ながいこと闇にうずくまっていた自分のまえに思いがけなく一つの燈火がともされたのに、その燈火の正体をよくつきとめもしないで、自分はあわててそれを吹き消してしまったのではないか、と思うと、やり場のないくやしさと、さびしさとが、胸の底からつきあげて来るのだった。
「どうしたんです。気分がわるいんじゃありませんか。」
だしぬけに木の根もとから声をかけたものがあった。大河無門の声だった。大河は枝を運ぶ役割にまわっていたのである。
次郎はぎくりとした。大河無門の声が、この時ほど次郎の耳に気味わるく響いたことは、おそらくこれまでにもなかったことであろう。
「いいえ、何でもないんです。……鋸屑が目にはいったような気が、ちょっとしたもんですから。」
次郎は、そう言って、わざわざ目を手の甲でこすった。しかし、つぎの瞬間には、そんなごまかしをやった自分が、たまらなくいやになり、思わず肩をすくめた。
「おりて来ませんか。鋸屑がはいっているなら、はやくとったほうがいいですよ。ぼく、見てあげましょう。」
「ええ、もうだいじょうぶです。