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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

朝倉先生も、さすがに愕然として、しばらくは口をきかなかったが、

「とうとうそんなことにまでなってしまったのか。おそろしいものだね。徒党の争いというものは。」

と、にぎっていたペンをなげすてるように机の上において、腕をくみ、眼をつぶった。

次郎は、先生が徒党の争いといったのを、政党の争いという意味にとった。

「やはり政党の腐敗に憤激してのことでしょうか。」

「それもあるだろう。それはたしかに事をおこす名目にはなる。しかし、今度のことは、おそらく陸軍内部の派閥争いに直接の原因があるだろう。」

「陸軍の内部にそんな争いがあっていたんですか。」

「挙国一致」という合い言葉の本家本元が軍隊であり、そしてその合い言葉で、国民を刻一刻と、のっぴきならぬ羽目に追いたてているのがこのごろの軍人であるということ以外に、軍隊の裏面について何も知らなかったかれとしては、それは無理もない質問だったのである。

「去年の八月だったか、永田鉄山中将が、軍務局長室で相沢中佐に暗殺された事件があったね、覚えているだろう。」

「ええ、覚えていますとも。まだ裁判はすんでいないでしょう。」

「あれなんかも、陸軍の派閥争いの一つの犠牲だよ。