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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

「今日は、田沼先生は、あとですこし時間をかけて、ある大事なことを諸君にお話しくださるはずだから、いつものおねだりはやめにして、これで解散する。午後は読書会の時間になっているが、その時間にお話をうけたまわることにしたい。お話がすんだあと、読書会がやれるかどうかわからないが、その用意だけはしておいてもらいたい。」

塾生たちはいつにない緊張した顔をして食卓をはなれた。

そのあと、塾長室には、三先生のほかに、朝倉夫人と次郎とが集まった。夫人も次郎も、食卓をはなれて事務室に行きかけたところを、田沼先生に呼びこまれたのであった。

田沼先生は椅子に深く身をうずめ、両手を前にくみ、伏目がちになって話しだした。言葉の調子には、すこしも興奮したところがなかった。むしろ重々しい、考えぶかい調子だった。事変の輪郭は恭一からの電話と変わりはなかったが、もっとくわしく、具体的で、確実性があった。

叛乱に参加したのは、近衛歩兵第三連隊・歩兵第一、第三連隊・市川野戦砲第七連隊などの将兵の一部で、三宅坂・桜田門・虎の門・赤坂見附の線の内側を占拠し、陸軍省・陸相官邸・参謀本部などはもとより、警視庁もすでにその占領下にあり、各所に立てられた旗じるしには、「尊王討姦」