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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

時日を必要とした。かれらの血を染めているのは、何といっても過去の社会環境であり、軍国主義的指導者によって植えつけられた思想であった。ことに最近は独逸のナチズムや伊太利のファッシズムの大波に上下をあげてもまれている時代であり、その影響にくらべると、まだ一か月にも足りない友愛塾生活の影響など物の数ではなかった。ちょっとしたきっかけさえあれば、それはあとかたもなく消え去るような、根の浅いものでしかなかったのである。したがって、かりに田川大作のような狂熱的青年がいて、血涙をふるって叛軍に同情するようなことがなかったとしても、塾生たちが冷静でありうる道理がなかった。事実、かれらの半数は、田川の側に立って激しい意見を述べ、他の半数も叛軍の行動には、かなり批判的でありながら、あからさまにそれを叛軍と認めるには忍びない、といった意見であった。こうして、意見は塾生相互の間で戦わされるよりも、むしろ、朝倉・小川の両先生と塾生たちの間に戦わされる場合が多かったのである。

二人の先生の言葉の調子は、その風貌の異なるように異っていた。朝倉先生の澄んだ張りのある声は、水のようにさわやかに流れ、小川先生のさびた低い声は、ごつごつと石がころがるように断続した。