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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

かれは、帽子をとっただけで、べつに頭もさげず、ジャンパー姿の次郎をじろじろ見ながら、いかにも横柄な口調でたずねた。

「今日は新しく塾生がはいる日ですね。」

「そうです。」

「式は何時からです。」

「もうあと三十分ほどではじまることになっています。」

「荒田さんがそれを見学したいといって、今日はわざわざお出でになっていますが、そう取次いでくだい。」

「荒田さんとおっしゃいますと?」

「荒田直人さんです。田沼理事長にそうおつたえすればわかります。」

「田沼先生はまだお見えになっておりませんが……」

「まだ?」

「ええ、しかし、もうすぐお見えだと思います。」

「塾長は?」

「おられます。」

「じゃあ、塾長でもいいから、そう取り次いでくれたまえ。」

次郎は、相手の言葉つきが次第にあらっぽくなるのに気がついた。しかし、もうそんなことに、むかっ腹をたてるようなかれではなかった。かれは物やわらかに、

「じゃあ、ちょっとお待ちください。」

と言って、玄関のつきあたりの塾長室に行った。そして、すぐ朝倉先生といっしょに引きかえして来て、二人分のスリッパをそろえた。

朝倉先生は、いつもの澄んだ眼に微笑をうかべながら、背広服の男に言った。