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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

「次郎さんは、もう幾人ぐらいお覚えになって?」

「さあ、十四五人ぐらいでしょうか。」

「もうそんなに? あたし、まだやっと五六名。」

「今度は、特徴のある顔が割合多いようですね。」

「そうかしら。あたし、そんなにも思いませんけれど。」

「こうして名簿を見ていますと、覚えやすいのは、比較的年上の人のようですね。やはり、年を食っただけ特徴がはっきりして来るんでしょうか。」

「それだけ垢がたまっているのかも知れませんわ。ほほほ。……だけど、ほんとうね。あたしが覚えているのも、たいていは年上の人だわ。大河さんっていう方もそうだし……」

すると、次郎は、急に名簿から眼をはなして、夫人の顔を見つめながら、

「その人、すぐ目につきましたか。」

「ええ、ええ、一目で覚えてしまいましたわ。名前からして、禅の坊さんみたいで、変わっていたからでもありましょうけれど。」

「その人ですよ。ほら、こないだ先生からお話があったのは。」

「はああ、あの、京都大学で哲学をおやりになって、今、中学校の先生をしていらっしゃるって方?」

「ええ、そうです。」

二人はあらためて名簿を見た。名簿には、それぞれの欄に、「大河無門、二十七歳、千葉県、小学校代用教員、中学卒」