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うたのうるおい
歌の潤い
伊藤 左千夫
「アララギ 第六卷第三號」アララギ発行所、1913(大正2)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,665 字 · 10 页
僅かの相違であるが『あまた立ちならぶ様のさびしも』と詞に淀みのある云い方が自然に作者の心持を現わして居る。是等の歌から受ける興味の程量は読者の嗜好に依て相違のあるべきは勿論であるが、兎に角生命の脈々たる歌であるのだ。
リンデンの枯葉の落つる秋もまたけおもき空は曇りてあるなり
これは前の歌のような感じを得られない歌である。結句『曇りてあるなり』の口調はこの塲合聊か軽快に過ぎると思う。
そぼぬれてせまき歩道のしきいしを一つ一つに踏みて行きけり
以下一連の歌は悉く金玉である。平淡な叙述の内に一道の寂しい情調が漲って居る。
夜眼さめて指針の光れる時計をば枕辺に見る二時にしありき
結句「二時にしありけり」と云わないで『ありき』と留めた処に深い感じがある。この一連の歌は、題目も新しく感じ方も新しい。そうして言外に寂しい情調が、しみ出て居る。そうして作者の心理状態が寂しい内にも漸く落ちついた処に僅かな余裕も窺れる。その自然の動きの現われてるのが、溜らなく※(「口+喜」、第3水準1-15-18)しい。
以上四連の歌を通読して見ると、作者の心理状態が時処に従って動揺し変化した自然の跡が歴々として読者の胸に響いてくる。