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かしゅう『わくい』をよむ
歌集『涌井』を読む
和辻 哲郎
「余情 第十集」1949(昭和24)年6月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,550 字 · 5 页
都会育ちの先生が、よくもこれほど細かに、濃淡の幽かな変化までも見のがさずに、山や野や田園の風物を捉えられたものだと思う。わたくしは農村に生まれて、この歌集に歌われているような風物のなかで育ったものであるが、幼いころに心に烙きついたまま忘れるともなしに忘れ去っていたさまざまの情景を、先生の歌によって数限りなく思い出した。たとえば、
蓮華草この辺にもとさがし来て犀川岸の下田に降りつ
げんげん田もとめて行けば幾筋も引く水ありて流に映る
おほどかに日のてりかげるげんげん田花をつむにもあらず女児ら
さきだつは姉か蓮華の田に降りてか行きかく行く十歳下三人
という一連の歌などは、ほとんど強い酒のように、わたくしを蓮華草の花の匂いや感触や、ふくふくと生い茂った葉の肌ざわりなどの中へ連れ戻して行った。流れに映るげんげの姿に目を留められたのも驚くべきことであるが、しかし蓮華草の田のなかにいる子供たちの幸福な気持ちを捉えられたのは、一層驚くべきことに思われる。そういう類のことがいくつでも出てくるのである。蓮華草の田がすき返され、塀の外田に蛙が鳴き、米倉の屋根に雀が巣くう、というような情景もそうであるが、やがて郭公の来鳴くころに、