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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

「ひどいことを云うね。それを君もきいたんだね」

「その声は低かったから、オレにはよくききとれなかったが、アケミさんがバタンとドアをしめて怒って戻ってきて、オレをうながして外へでたのさ。すると正午のサイレンさ」

「つまり君は神田先生には会わないのだね」

「百日のうち拝顔の栄に浴したのは三十日ぐらいのものさ。彼氏は名題の交際ギライでね」

「君がチゴサンてわけではなかったのかい」

「よせやい」

「ねえ。君。各紙は神田兵太郎氏の性生活を面白おかしく書き立てているが、実はみんな想像にすぎない。そして神田氏が浪費家で一文の貯えもないことを当然だと思っているらしいが、神田氏の食生活や性生活は門外漢には神秘的かも知れないが、一千万円の年収がそっくり出てしまうほど金のかかる生活だろうか。彼氏がケチなのも名高いのに、一文の貯蓄もないのは変じゃないか」

「道楽者の生活はそんなものさ」

「ところが安川久子嬢は云ってるぜ。先生から私的なお話をうけたのは事件前日の電話だけだとね。各紙の躍起の調査の結果も、彼女の私生活から蔭の生活をあばくことに成功していない。一方毛利アケミも他に愛人はいないようだと云っているぜ」