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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

郊外電車がF駅についたのが十一時三十五分。このF行きは始発から終発まで三十分間隔になっていて、次の到着は十二時五分。それだと〆切の時間が心配になる。

「あと、五十日か」

文作は電車を降りて溜息をもらした。流行作家神田兵太郎が文作の新聞に連載小説を書きはじめてから百回ぐらいになる。約束の百五十回を終るまでは、毎日同じ時間にFまで日参しなければならぬ。駅から神田の家までは十分かかった。

前方を洋装の若い女が歩いて行く。

「どうやら、あの人も神田通いだな」

と文作は直感した。畑の道を丘に突当ると神社がある。そこから丘へ登りつめると、神田兵太郎の家である。近所には他に一軒もないという不便なところだ。

神社の前で女が立ちどまって何か迷っている様子であった。追いついた文作は迷わず話しかけた。

「神田さんへいらッしゃるんでしょう」

「ハ?」

「神田さんはここを曲って丘の上ですよ」

「ハア。存じております」

「そうですか。どうも、失礼」

文作は一礼すると泡をくらッて丘の道を登りはじめた。なぜかというと、かの女性が年歯二十一二、驚くべき美貌であったからである。

「おどろいたなア。