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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

清川純

よみ終った衣川の顔色はこの世のものとは思われなかった。

しかし彼が考えをまとめようとする途端ドアを叩いて女中があわただしくはいって来た。

「旦那様、お電話でございます」

「どこから」

「あの……長距離電話で、どこかの警察だそうでございます」

「何、警察?」

或るおそろしい、いまわしい予感におそわれて彼は電話室に立った。

「……僕衣川柳太郎です……え? 何?……S県Nの警察?……はあ、はあ、何です。よく聞えませんが。……それは僕の妻の名ですが。何? 雪の中、死んで?……何ですかもう一度云って下さい、そうですよ、それはたしかに僕の妻ですが。……僕にあてた手紙がある? 死んだのですかほんとうに? え、紳士態の死体?……、……何、清川弘!」

外に居た女中は主人のただならぬようすを注意していたがこの時、突然、電話室のガラスがくだける音がして、主人がよろよろと仆れるのを見た。

衣川柳太郎は脳貧血をおこして仆れたのであった。

数日の後、

臥床して誰にもあわなかった衣川柳太郎は親しい藤山検事が、一私人として見まいに来たのをきいて、しいて居間に通した。

わずかの間にいたましくやつれた主人の顔を見ながら、藤山検事は一応の見まいをのべ、からだの養生をするように、おだやかにいとまをつげようとした。