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ぶどうむもん

武道無門

山本 周五郎

「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 页

青空文庫

たどたどしいが要領は得ている、忠善は彼の面を見戍りながら黙って聴いていたが、果し合の条になると思わず笑いだし、

「もう宜い、あとは見ていた」と手を振って云った、「……それで果し合の仔細は分った、こんどは予から申すことがある、よいか、明朝五時、商人の手代の姿に身を変えて、矢矧橋の袂までまいれ、分るか」

「恐れながら、その、商人の手代と申しますると、詰りわたくしめが、その」

「如何にも其方が姿を変えるのだ」忠善は声を低くして云った、「極秘だから他言はならぬぞ、明日余は尾張領へまいる、身を忍ばせて名古屋のお城を探索するのだ、其方にその供を申付ける、分ったか」

「はっ、……はっ、……」

小弥太は息苦しそうに喉をこくこくと鳴らし、なにか云いそうにしたが、そのままそこへ平伏した。忠善は重ねて他言を禁じ、馬を呼んで城へ帰った。

水野忠善は監物忠元の子で、慶長十七年江戸に生れ、九歳で父の遺領を継いだ。そのときは下総国山川で三万五千石だったが、のち駿河国田中で四万五千石、続いて三河国吉田に移り、更に現在の岡崎城へ五万石で封ぜられたのである。……ところで、彼が岡崎に封ぜられたのには意味があった。