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ぶどうむもん

武道無門

山本 周五郎

「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 页

青空文庫

三

大きな躯を丸くして、めった無性に駆けた。なんども追い付きそうになった。殆んど手が届きそうになったこともある、それで彼は焦った、焦ったあげく分別を忘れ、夢中で相手の背中へ大剣を叩きつけた。……ところがそれは無理だった、その動作は疾走している躯の重心を破り、彼は誰かに突き飛ばされでもしたようにのめった、みごとつんのめった。……そしてもう起き上る力もなく、仰反けざまに伸びたままはあっ、はあっと今にも絶入りそうに喘いでいた。

「さあ来い、起きて来い」小弥太は中段の剣を、ゆらゆらと上下に動かしながら、元気な声で叫んだ、「拙者は卑怯な真似はしない、こうして待っていてあげる、起きて来い、さあ……起きておいでなさい」

然し勘兵衛には聞えなかった。「はあっ、はあっ」という喘ぎと共に、彼の厚い胸板は、今にも破裂しそうな勢いで荒々しく波を打っていた。

三

草原の一隅に馬上の武士が三人、さっきから馬を停めて、この様子を笑いながら見ていた。……いちばん前にいる逞しい相貌の一人は、岡崎五万石の領主、水野監物忠善で、近習の者二名と共に遠乗りに出た帰途、はからずもこの類のない果し合をみつけたのであった。