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ぶどうむもん

武道無門

山本 周五郎

「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 页

青空文庫

忠善は、こう早く手配が届こうとは思わなかった。彼はちょっと棒立ちになった。

「伊右衛門、これはいかんぞ、どうやら八方が塞がれたようだ」

「なに、是れしきのはした人数!」伊右衛門は脇差をぐっと掴んだ、「斬って通るになにほどの事がございましょう、伊右衛門つゆ払いを仕りまする」

「お待ち下さい」小弥太はおろおろと叫んだ、「これだけの手配りではとても御無事に殿をお落し申すことはむずかしゅうございましょう、此処はどこまでも、逃げのびるが勝ちと存じます」

「こう八方を塞がれて逃げられると思うか」

「わたくしが御案内を致します、岡野さましんがりを」

云ううちに、もう小弥太は駆けだしていた。

忠善が続いて走りだしたので、伊右衛門もしんがりになって駆けた。……挾撃されている街上から、小弥太は蔵屋敷の細い小路へとびこんだ。そして真直ぐに桶屋町まで行くと、堀に沿って広小路へ出た。

「其方へ出ては大手筋だ、番所があるぞ」伊右衛門が叫んだ。

小弥太は答えなかった。然し初めからその足取りには自信があった。狭い露路から横丁へ、そして幾十度となく曲る角にも、些かの迷いも躊いも見せなかった。