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ぶどうむもん
武道無門
山本 周五郎
「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 页
……勘兵衛が立止ると、小弥太も止った。勘兵衛の厚い胸板が、荒い呼吸のために波を打った。小弥太はまた剣を中段に構え、ゆらゆらと上下に動かしながら云った。
「さあ来い、どこからでも来い」
勘兵衛は苦しそうに息をつき、とび出しそうな眼で相手を睨みつけていたが、
「貴様、貴様も武士だろう」と喘ぎながら喚いた、「武士なら尋常に勝負しろ、逃げるなどとは卑怯だぞ、いいか、こんどこそ逃げると承知しないぞ」
「心得た、いざ来い」
勘兵衛はずいと出た。小弥太はすかさず同じほど退った、勘兵衛は真赤になった。
「やい卑怯者、臆病者、なぜ斬って来んのだ、どうして逃げるんだ、来い」
「逃げるのではない、拙者の気合を計っているのだ、其方こそ斬って来い」
「宜し、行くから、……動くなよ」
勘兵衛は呼吸を計って、「動くなよ」と云いざま、飛鳥のように斬り込んだ。
斬り込んだ呼吸もすばらしかったが、逃げだす小弥太も迅かった。韋駄天のように五六十間、半円を描いて走った。疾いのなんの、それから逆に廻り、松応寺の森の際まで行ったと思うと、原の東側に沿って観音寺の丘の方へ戻った。……勘兵衛は逆上して夢中だった。