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しとかげ

死と影

坂口 安吾

「文学界 第二巻第九号」1948(昭和23)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,160 字 · 11 页

青空文庫

それも亦、三平の、あのふるさとに似ていた。

私も己れを虚うし、己れの意志に反して、ヤマサンに同化し、この珍妙可憐な妖怪にかしずかれて暮そうか、と考えたこともあったのである。考えざるを得なかったのだ。私には、心棒がなかった。なにも分るものがなかったのだ。

私がそれを敢てしなかったのも、そんな逃げ方をするぐらいなら、死ね、死んでしまえ、という声を、耳にしていたからだった。

死んではならぬ、と、考えつづけた。なぜ、死んではならぬか、それが分らぬ。

何をすれば、生きるアカシがあるのだろうか。それも、分らぬ。ともかく、矢田津世子と別れたことが、たかが一人の女によって、それが苦笑のタネであり、バカらしくとも、死の翳を身にしみつけてしまったのだ。

新しく生きるためには、この一人の女を、墓にうずめてしまわねばならぬ。この女の墓碑銘を書かねばならぬ。この女を墓の下へうめない限り、私に新しい生命の訪れる時はないだろう、と思わざるを得なかった。

そして、私は、その墓をつくるための小説を書きはじめた。書くことを得たか。否、否。半年にして筆を投じた。

そして私が、わが身のまわりに見たものは、更により深くしみついている死の翳であった。