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しのぜんご
死の前後
豊島 与志雄
「経済往来」1933(昭和8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,273 字 · 35 页
おしげの荷物を調べるのは憚られるが、何か深い関係がありそうなみち子へ、内々耳に入れておく方がよさそうだ。
蔦子という名前で芸妓に出てた彼女は、本所の折箱屋夫婦に連れられて、初めて島村の家の敷居をまたいだ。おとなしい七三のハイカラに髪を結って、指輪もすっかりぬきとっていたが、その全体の感じが、島村の妻君は何となくなじめなかった。痩せがたの、顔立も相当ととのった、二十二三の女だったが、縁のたるんだ浮わついた眼、生気と血色との乏しい滑らかな頬、顔は殆んど素肌で頸筋を白くぬった化粧の工合、襟のくり方が素人とちがう黒の紋服の着附工合、腰から膝への体重のもたせ方など、その全体の感じに、いつでもひょいと動きだしそうな不安定さがあって、病身の神経質な島村の妻君には、しっくりと話がしにくいように思えた。殊にその細そりした鼻筋と受け口の下唇とが、変に彼女の心を反撥した。彼女はそのことを島村に云った。それで、島村が話を引受けた。
合間を見計って、島村は彼女を別宅によんで、おしげの貯金のことを話しだした。よく知っておりますとの、事もなげな返事だった。
「昨日来ました時、貯金と通帳と印章を、あたしのところへ置いていきました。