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しのぜんご
死の前後
豊島 与志雄
「経済往来」1933(昭和8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,273 字 · 35 页
それ故、叙述の筆はここで島村陽一から離れざるを得ないのである。なお序に云っておけば、おしげの遺骨は、暫く寺に預けておかれた後、蔦子の手で郷里の墓地に納められた。
蔦子は島村のところでは一生懸命にとり澄していたが、そうした態度をとらなければいられなかったほど、おばさん――おしげ――の急死に心打たれたのだった。死因ははっきり説明してきかされたし、疑わしい点もなかったが、最後に逢った晩のことが、いつまでも頭について離れなかった。それに丁度、ひるま、坪井と頼りない別れかたをしたばかりのところだった。
坪井が五十円の金を都合してきて、不義理のない新らしい出先で前晩から逢って、朝九時頃に起上り、それから正午頃まで、二三本の銚子だけで、ぼんやり過してしまったその時のことが、まるで夢の中のようだった。別に話すこともなかった。薄曇りの昼間の明るみの中で、そうして差向いになっていると、坪井が好きなのかどうかさえ分らなくなってくるのだった。
もともと、好きあった仲でもなかった。坪井はどこか田舎者めいたがっしりとした体格で、流行唄とききかじりの端唄とに柄にない節廻しを見せるきりで、好きだからというのでなくただ飲むために飲むという風に、どこか捨鉢な速度で酒杯を重ね、その飲みかたに蔦子もひきこまれて、酔った揚句、偶然といってもよい