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しまでをかたる

死までを語る

直木 三十五

「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页

青空文庫

父が叱るので、母に頼んで、この見料をもらうのであるが、私が子供の上に、貧乏であるし、近所でもあるし、とにかく、一寸、立っている間に、半分位は読むので、本屋の方で、私の立読みを黙許してしまってくれた。

それから弟を、子守してやると云って背負って出ては、ここへ入込んだ。その内に、講談本のみでなく、渋柿園、涙香、弦斎、というようなのが入ってきた。これは少しむずかしすぎて、読むのに骨が折れた。そして、読書力の低い、この町の人々は、講談の本がよいらしく、この三人の外に、柳葉、春葉が入ってきたまま、通俗小説は、来なくなってしまった。「金色夜叉」や「不如帰」を読んだのは、遥かに後であった。

この貸本屋一件が、転じて、図書館行になるのであるが、私が尋常小学を出て、高等小学へ入ると共に、成績が、中位になってしまったのは、この貸本屋の御蔭である。

尋常小学での、私の記憶は、この位しかない。幼稚園で、初めて習った唱歌が

霞か、雲か、はた雪か

とばかり匂うこの花盛り

であるとか、日清戦争の直後とて

煙も見えず、雲もなく

風も起らず、浪立たず

のような軍歌が、盛んだった記憶があるが、それは、私一人だけの話でないから、省いておく。