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しまでをかたる

死までを語る

直木 三十五

「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页

青空文庫

この下宿へ落ちついたが、下宿から、中学の庭を透して見える、小汚い生垣の、傾いたような家が、夏目漱石氏の旧居で「猫」は、あすこで書いたんだよ、と、藤堂が説明してくれた。

汚い下宿であったが、その旧居が見えるのが、誇りのような気がして、そこにいた。

そして、いかに、二十五円より安くて生活すべきかを、藤堂とも話をした。

「飯が焚けるか」

「焚ける」

「上手か」

「上手だ」

と、いうような会話から、間借りをして、自炊をするのが安い、という事になって、私は、使命を果し、大阪へ戻った。この上京中に、徳子さんへ、手紙を出したので、確証が握られたのである。

この上京した夜、勝手の知った本郷へ、一人で出てきた所が、今の燕楽軒の前で、書生と、職人の喧嘩があった。

「何っ」

と、叫ぶと、職人が、諸肌脱いだので、大阪の喧嘩しか知らぬ私は

(これは危険だ、東京で喧嘩するもんではない)

と、感じて、以後、手出しした事はない。年に一度位女房へ出すが、これは危険でない。

大阪では、子供時分から、よく喧嘩をするし、東横堀の木材の蔭に「十銭」と称する立淫売が出没するので、竹をもって、木材の間を掻き廻しに行ったり、松の亭の下足をとる時、うしろから、馬鹿力で押す奴があるので、振向きざま、撲ったり――相当に暴れたが、諸肌脱ぐ、勢を見ると、善良な、強がりだけ