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しまでをかたる

死までを語る

直木 三十五

「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页

青空文庫

「家との事が、中々面倒で――あんた、いつ帰る」

と、いう手紙がきた。そして、この手紙の終りに、何んと「旦那様」と、書いてあった。

うれしいような、馬鹿にされたような――こんな言葉は車屋と、乞食の使う言葉で、使われる奴は、五十歳以上というように感じていた私は、その手紙を披げて、にやにや笑いながら

(矢張り、征服したのかな)

とも、感じた。暑中休暇がすぐに来た。大阪へ帰ると

「家から出してくれぬ」

と、ノートの端に走り書をして、使の者に届けさせてきた。

「奥へ入れたっ切りで、兄が見張っている」

二十一の男を、大阪から、いい齢をして、追っかけて行ったのだから、兄玄竜の怒るのも尤もである。だが、私の怒ったのも、又尤もであった。

雨もよいの空、私は、怒りのかたまり見たいになって、須磨子の家の門を押した。ぎぎいと、重い重りが鳴り、鎖ががらがらと響いた中へ入ると、暗い。のぞくと、誰も居ない。

「お須磨さん」

と庫裡へ入って、声をかけると、市次郎の母が出てきて

「何んです」

「お須磨さんは?」

と、聞いた時、兄玄竜が

「来てもろたらいかん」

と、奥から出てきて、廊下へ立ったままで云った。