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しまでをかたる
死までを語る
直木 三十五
「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页
「博文館へ話するから、談話筆記でもとらないか」
と、云ってくれた。それで、かかりの人に逢うと
「鎌田栄吉さんを訪問してきてくれませんか」
と、いうのである。
「そして、五枚位に書いてもらいたいんだが」
私は、すぐ鎌田氏を、慶応義塾に訪うた。
「明日午後一時に来なさい」
というのである。その日に行くと、氏は、部屋から出てきて、私の待っている廊下――庭に面した廊下へ立ったまま、青年に対する訓戒の言葉を話された。私が、それを筆記し終ると
「見せてもらいたい」
と仰しゃった。私はその日、戻るとすぐ清書して送ったが、それっきりである。私は、筆記もとれないらしいのである。その内に、子が出来た。「木の実」という名をつけた。産婆と、隣りの婆さんとに
「家にいてはいけません」
と、云われて、早稲田のグラウンドの周囲を二時間の余も、歩いていたのを憶えている。戻って来ると
「二人とも達者だよ」
と、婆さんは、云ってくれたが、私は
(何うして生活すべきか)
が、第一であった。父にとっては、初孫であるし、いい時に生れやがったと、すぐに、父に無心さした。着物に金を少し送ってきた。ほっと一息ついたが、それはほんの一息である。