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しけんといきなわ
死剣と生縄
江見 水蔭
「講談倶楽部」1925(大正14)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,104 字 · 31 页
江戸にも珍らしい別嬪で有った。
それが又如何したのか。垢染み過ぎた蝶散らしの染浴衣。白地の多いだけに秋も初めとは云いながら、冷や冷やと見すぼらしく。帯も細く皺だらけで、貧弱さと云ったら無いので有った。頭髪の結び方と顔の化粧振りとに対して、余りに扮装が粗末なので、全く調和が取れなかった。これでは誰の眼にも謎で有ろう。
未だ其上に可怪しいのは、此上天気に紺蛇の目の雨傘を持っていた。其癖素足に藁草履を穿いて、ピタピタと路を踏むので有った。
女化ケ原の狐が娘に化けて、たぶらかしに附いて来るのか。昼間化ける位だから、余程官禄の有る狐だろうとも、戯れに考えたい位で有った。
急げば急ぎ、休めば休んだ。まるで影のように附いて来るので有った。振向いた時にはにっこり向うから笑うのであった。竜次郎は気味を悪くも覚え出した。
「御武家様は、江戸へ入らっしゃいますのでしょう」
稲田の畦中、流れ灌頂の有る辺で、後から到頭声を掛けた。
「左様」とのみ竜次郎は答えて、後を何んとも云わなかった。
「私も江戸へ参ります」と問わず語りを娘がした。
「左様か」とやはり竜次郎は素気なく答えた。
「今夜のお泊りは布佐で御座いますか。