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しけんといきなわ

死剣と生縄

江見 水蔭

「講談倶楽部」1925(大正14)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,104 字 · 31 页

青空文庫

「や、もう江戸行は止す。是から阿波へ帰る。其上で身の潔白を立てよう。兎に角、衣類を」と云った。

お鉄が喜んだ事は一通りでなかった。

「これ此通り。ちゃんと私が持っている。さあ風邪を引くと悪い。早くお着きなさいよ」

子供の湯上りに母親が衣類を着せるようにして着せ掛った。竜次郎が小刀を、下帯から抜いて、路傍に置いたのは勿論で有った。

それを倒れていた小虎が密と取った。抜くや、突然、お鉄の横腹へ突立てた。お鉄の悲鳴は唯一声であった。

「女の意地ですわ。私だって竹割り小虎。さあ旦那様、江戸までお供致しましょう」

血刀をお鉄の袖で拭いて、元の鞘に納めて返すので有った。

迚も一通りや二通りで、解決の着くべき問題では無かったのを、小虎の為に簡単に捌かれたので有った。竜次郎は唯只運命の奇なるに驚くのみで有った。

*      *      *

明治中期まで警視庁第一の捕物老刑事として名の高かった○○○○○氏こそは、この磯貝竜次郎の後身なので有った。其前の妻女は正しく小虎で有ったが、それは明治初年に病死したという。竜次郎が陣風斎から、八方巻雲の秘伝を授かったか如何か。