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さつじんき
殺人鬼
浜尾 四郎
「名古屋新聞」1931(昭和6年)4月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,139 字 · 13 页
私は、早くも、彼がその小説について何か不満足な点を思い出していると感じたので、すばやく先手を打つつもりで切りだした。
「何も、これはあの小説には限らないけれども、いつたい僕が探偵小説の中で気に入らないのは、出て来る名探偵が偉すぎることなんだよ。シャーロック・ホームズは勿論、ポワロにしろソーンダイクにしろ、またフィロ・ヴァンスにしろ、人間以上じやないか。実際あんな偉大な人間なんてものがあるもんじやないからね」
「そりやそうだ」
藤枝は余り気のない返事をした。
「これは君を前において、ひやかしに云うのでもなく、またお世辞に云うのでもないが、君位なところがまず実際上の名探偵だよ。我が藤枝探偵はシャーロック・ホームズの如き推理力はなく、フィロ・ヴァンスの如くに博学に非ざれども……」
「オイオイもうよせよ」
彼は、でもちよつと恥ずかしそうに顔を赤らめて、私のいうことをさえぎるように云いはじめた。
「君のいう通り、探偵はえらすぎるよ。しかし僕に云わせれば、こないだの小説にしろ、どの小説にしろ、悪人が少々悪すぎると思うね。どうして小説家がほんとの悪人を描かないのかね」