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せっしょうだにのおにび
殺生谷の鬼火
山本 周五郎
「新少年」1937(昭和12)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页
「助けて――えッ怖いッ」
馬車の中から聞える悲鳴は正に千代子の声だ。
「うぬ、鬼火め!」
敦夫は手綱を絞って馬を停めると、舞狂っている鬼火を狙って続けざまに射った。
だーん、だーん、だーん。
銃声は柏の林に木魂した、そしてぎゃぎゃぎゃん※(感嘆符二つ、1-8-75) という、慄然とするような咆哮が聞えたと見る間に、今まで恐ろしい早さで廻っていた鬼火が、ぴたりと地上へ動かなくなった。――敦夫は更にそれを狙って三発、充分に射止めて置いて馬車へ乗着けた。
馬車の中には千代子が、殆ど半分気を失っていたが、敦夫が近寄って、
「チイ公、もう大丈夫だぞ」
と呼びかけるや、
「まあお兄さまッ」
と叫びながら、狂ったように兄の体へとびついて来た。
「怖い、鬼火が、鬼火が……」
「大丈夫だよ、鬼火はもう僕が片付けたよ、母さんも無事だったんだ、もう何も心配することはないよ」
「ええ※(感嘆符疑問符、1-8-78) 母さんが生きて――?」
「そうなんだ、何も彼も直ぐ片がつくよ、――御覧。おまえの怖がっていた鬼火はそこに転がっているよ」
敦夫の指示した処を見ると、一頭の巨きな、犬のような獣が死んでいた。