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せっしょうだにのおにび

殺生谷の鬼火

山本 周五郎

「新少年」1937(昭和12)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页

青空文庫

「えらく早いお着きでがすな」

「旭川まで旅客機で来たからね、――旅客機、飛行機だよ」

「そんな危ねえ物にお乗んなすって」

「まあ宜い、出掛けよう」

敦夫は馬車へ乗った。――馬車はまだ灰色の残照のある道を、荒地の方へ向ってがたがたと走りだした。

「一体何事が起ったんだ、爺や」

「恐ろしい事が始まっただぞ若旦那さま、奥さまは非業にお亡くなり遊ばすし、大旦那さまも御容態が危ねえだ、――村の者の中にも人死にがあるだよ」

「訳を話して呉れ、訳を」

「殺生谷の鬼火が祟り出しただ、御領分内の者ぁみんな生きた空ぁねえでがすよ」

平造の話を簡単に記そう。

この老人が「御領分内」と云っているのは、椙原家で持っている広大な土地を指すのである。それは北見と石狩の国境に近く、ふたつの嶮しい山塊に囲まれた平原で、湿地や沼沢の多い、礫の洗出されたひどい荒蕪地に取巻かれていた。――その土地の、つまり椙原村の一里ほど北へ離れた処に、俗に「殺生谷」と呼ばれる沢地がある。背を没するような蘆の生えた泥深い沼と、陰科植物の繁殖した湿地とで成り、見るからに物凄い場所であるが、そのうえ其処には昔から恐ろしい伝説があった。