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せっしょうだにのおにび

殺生谷の鬼火

山本 周五郎

「新少年」1937(昭和12)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 页

青空文庫

父の顔には見るも痛ましい苦悩が刻みつけられていた、医者から余り話をしないようにと注意されていたので、簡単に挨拶だけして退ろうとすると、父は不意に鋭い眼をして、

「――敦夫、云って置くが、おまえは直ぐ東京へお帰り、千代子も伴れて行くんだ」

「そんな事は父さんが治ってから」

「否、いかん」

父は敦夫の言葉を遮って、「今度の事件は是からが本筋だ、母さんが第一、二番目は父さんだ、そして此処にいる限りおまえも千代子も同じ運命に死ななければならぬ」

「どうも、僕には納得がゆかないですが」

「話してやろう。――おまえは殺生谷の伝説を知っているだろう、椙原家の先祖が此処へ入墾した当時、百幾十人かの土人を殺してあの底無し沼へ投込んだと云う。……事件の因はあれなのだ」

「つまり土人の怨霊ですね」

「そうだ、多くの土人の怨霊が凝って鬼火となり、椙原家の人間を取殺そうとしているのだ、然もそれは今度が初めてではない、七十年目毎に繰返されている事が分ったのだ」

敦夫はこの新しい事実に驚いた。

「では以前にもあったのですか」

「第一回は宝永七年、第二回は安永九年、第三回は嘉永三年、――三回とも恐ろしい鬼火が現われて殆ど一家全部を殺生谷へ引込んで了った。