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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

それこそ素晴しく闊達に其処からすべての生命が輝き出すということなの。ところが青年というものは、とかく否定好きなものなのよ。肯定は古くて否定は何か新鮮なように思うのね。生命の豊富な資源を使い分けるよりも、否定に片付いている方がむしろ単純で楽なんじゃない?」

「そう云われれば、僕なんか嫌でやり切れないくせに、シェストフの著書に引っぱられているわけが自分でも判るんです」

女中が紅茶を二つ運んで来て、規矩男の大デスクの上の書籍の空間へ置いて行った。規矩男は一つをかの女に与え、自分も一つを飲みながら、

「今日は母が居ないからご馳走がないな。だけどご馳走攻めされなくて煩わしくないでしょう」

でもそう云われればかの女は、それが規矩男の母の美点だとさえ思えて来るのである。煩わしいのはそれが形式で、その他の気持の上での分量を何も相手に与えないから、一方の形式が目立ち過ぎて煩わしく感じられるのだ。

「規矩男さんのお母さんは……」

とかの女が云いかけると、

「まあ僕の母のことは好いです」と抑えて、「あなたゴルキーの母という小説を読みましたか」

「ええ、読んでよ」

「あの母は感心というより可愛ゆいな」