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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

そしてモナミである。かの女を連れ出して、この喫茶店のアカデミックな空気の中に游がせて置けば、かの女は、立派に愉快を取り戻せるものと信じ切っているらしく、かの女に茶を与え、つまみ物を取って与えた後は、ぽかんとして、勝手な考えに耽ったり、洋食を喰べたり、元気で愛想よくテーブル越しに知人と話し合う。

今も、「やあ」と彼が挨拶したので、かの女が見ると、同じような「やあ」という朗らかな挨拶で応けて、一人の老紳士が入って来た。紳士がインバネスの小脇に抱え直したステッキの尖で弾かれるのを危がりながら、後に細身の青年が随いていた。

老紳士は、眼鏡のなかの瞳を忙しく働かせながら、あたりの客の立て込みの工合では、別に改った挨拶をせずとも、まだ空のある逸作等のテーブルに席を取っても不自然ではないと、すぐ見て取ったらしい、世馴れた態度で、無造作に通路に遊んでいた椅子を二つ、逸作等のテーブルに引き寄せた。自分が先へかけると、今度は、青年を自分の傍に掛けさせた。青年は痩せていて、前屈みの身体に、よい布地の洋服を大事そうに着込んでいた。髪の毛をつやつやと撫でつけていることを気まり悪がるように、青年は首を後へぐっと引いて、うつ向いていた。