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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
老紳士は易々として退いて行った。その間かの女は、むす子がふだんこういう人と交際うならお小遣が足りなくはあるまいか、詰めた生活をして恥を掻くようなことはあるまいか、胸の中でむす子が貰う学資金の使い分けを見積りしていた。しかし、それよりも、むす子に向って次の靠れ壁から声をかけた一人の若い娘に考えは捉えられた。その娘は病気らしく、美しい顔が萎びていて僅かに片笑いだけした。
「ジュジュウ! 病気悪いか」
娘はまた片笑いしただけだったが、かの女は、むす子がその娘に対する挨拶に、ただの男らしい同情だけ響くのを敏く聞き取って、その女は遊び女に違いないにしろ、もっとむす子は優しく云ってやればいいのに、と思った。
「イチロ。空いたところがある」
鳶色の髪をフランス刈りにしたマネージャーが、人を突きのけるようにして、かの女等親子を導いて、いま食卓の卓布の上からギャルソンが、しきりにパン屑をはたき落している大テーブルへ連れて行った。そこでマネージャーは無言でぱっと両手を肩のところで拡げ、首をかしげて、今夜は忙しくて忙しくてという身振りをする。ギャルソンは新しい卓布を重ねて、花瓶の位置をかの女の方向へ置き直した。