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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
と規矩男は云った。
母の鏡子は土地の素封家の娘だった。平凡な女だったが、このとき恋に破れていた。相手は同じ近郊の素封家の息子で、覇気のある青年だった。織田といった。金持の家の息子に育ったこの青年は、時代意識もあり、逆に庶民風のものを悦ぶ傾向が強くて、たいして嫌いでもなかった鏡子をも、お嬢さん育ちの金持の家の娘という位置に反撥して、縁談が纏りかかった間際になって拒絶した。そして中産階級の娘で女性解放運動に携わっている女と、自分の主義や理論を証明するような意気込みの結婚をした。
平凡な鏡子が恋に破れたとき、不思議に大胆な好奇的の女になった。鏡子は忽ち規矩男の父の結婚談を承知した。父は鏡子の明治型の瓜実顔の面だちから、これを日本娘の典型と歓び、母は父が初老に近い男でも、永らく外国生活をして灰汁抜けのした捌きや、エキゾチックな性格に興味を持ち、結婚は滑らかに運んだ。
松林の中の別荘風の洋館で、越後のいわゆる、人生の本ものを味わうという家庭生活が始まった。
「しかし人生の本ものというものは、そんな風に意識して、掛声して飛びかかって、それで果して捉えられて味わえるものでしょうか。