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ははおや
母親
豊島 与志雄
「読売評論」1951(昭和26)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,057 字 · 11 页
「ちょっと、お待ちなさいね。」
信子は果物屋にはいって、そこにつっ立ち、暫く考える。
「あの……これとこれとこれ、二つずつ下さいません。小さいのでいいわ……お仏壇にあげるんだから……その代り、恰好のいいのをね。」
蜜柑と林檎と柿を、二つずつ、紙袋にいれて貰い、鶏肉のわきにそっと、買物袋へ納める。
「さあ、帰りましょう。」
信子は娘の手を取って、にっこり頬笑みかける。
――吉岡は酒瓶をすかし見てから、銚子にまた一本つぎ、燗をした……。信子よ、あなたの頬笑みは淋しい。私も淋しくなった。私は今こうして、会社を休み、炬燵開きなどしているが、それも、自分の感傷に甘えてるのではない。休養ということも、明日からの奮闘に備えて、たまには許されるだろう。あなたも、今日は仕事を休んでるじゃないか。それにしても、私たちの休養日のなんと貧しいことだろう。あなたは鶏肉を百匁買った。それが精一杯だったろう。それから果物を六個。私の方では、スルメとピーナツをかじり、酒を五合飲んでいる。このうちの一合分だけでも、あなたに上げることが出来たら、どんなに嬉しいか。一合とは限らない。一合の酒代で、鶏肉を買い足し、一合の酒代で、果物を買い足し、一合の酒代で、あの神社の綱張りの中へ……いや、神社の方はあれで結構だ。