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ははおや

母親

豊島 与志雄

「読売評論」1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,057 字 · 11 页

青空文庫

」

「いいえ、着物なんかどうだって宜しいんです。お詣りを二度もするのは……。」

「慾ばりね。」

「そう、慾ばりですよ。」

「慾ばり、やめたあ。」

歌うように言って喜久子は笑う。信子も笑う。

「今日は、あなたがちっとも慾ばらなかったから、御馳走してあげましょうね。」

「知ってるわ。鶏のお肉でしょう。」

「あら、どうして分ったの。」

「だって、さっき買ったんですもの。」

「あ、そうでしたね。お好きでしょう。」

「大好き。久しぶりだわ。お砂糖も使ってね。」

「ええ、沢山使ってあげますよ。早めに御飯にしましょうね。」

信子は台所に立ってゆく。喜久子は古い絵本を取り出し、また繰り返して、眺めたり読んだりする。

「お母ちゃん、あのね、あたしが学校にゆくと、お母ちゃん淋しいでしょう。」

台所から信子が返事する。

「今から、そんな、生意気なこと言うんじゃありません。」

喜久子は首をすくめて、また絵本に見入るのである。

――吉岡は酒をぐいぐい飲んだ……。信子よ、私はだいぶ酔ってきた。だが、これを飲んでしまいたい。そして散歩に出よう。雲が切れて、夕日がさしてきた。夕日の中を歩きたいのだ。然し、あなたを訪れに行くのではない。