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みずがめ
水甕
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,082 字 · 26 页
どちらも中年の男で、あちらは開襟シャツにズボン、恐らくは下駄でもはいていそうで、近辺の地廻りの者らしく、こちらは、着くずれた国民服で、恐らく地下足袋でもはいていそうで、けちな闇ブローカーらしく見えました。
「しみったれたことを言うもんじゃねえよ。酒飲みにはしみったれが禁物だ。」と言うのはあちらの男でした。「飲む金が儲からなけりゃ飲まねえ……なあ、おい、そんなら、金を飲んだらよかろう。酒飲みは酒を飲むものなんだ。ここの店に来る者あ、酒飲みばかりだ。なあ、おやじ、そうじゃねえか。……俺なんか、飲む金がなくっても飲むんだ。それでも迷惑はかけやしねえ。おやじ、そうだろう。そこがコツさ。……なあ、おい、しみったれちゃあ、酒がまずくならあ。飲む金がなくっても、飲めるだけ飲んでみな。豪勢なもんだ。」
主人はいい加減にあしらっていました。がこちらの男は、へんに真面目とも見える卑屈さで、返事をしていました。
「そうですとも、しみったれは禁物ですな。……だから私なんかあ、弟が復員してきて、まあいくらか儲けてくれるから、こうして飲めるというもんです。……いや、弟がいなくなっても、やっぱり飲みますよ。