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みずがめ

水甕

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,082 字 · 26 页

青空文庫

つまり、昔は普通にあった電熱器の、も少し粗末なものを拵えてみたに過ぎません。主な材料は手持品のなかにありました。ただ、それが多量にないため、試作品ということにして、ストックされていたのです。然し、やがて、燃料欠乏の冬期をめあてにそれが売り出され、多分の利潤を得て、年末の特別手当の増額となるであろうということを、この小さな会社の従業員たちは暗黙のうちに了解していました。そういうところへ、突然、中本の手に在庫電熱器を引渡すという議が起りました。そして代償としては、コード用の銅線ばかりでありました。その物々交換の交渉は、専務と中本との間でなされ、専務はその決定を従業員の幹部へ通達しました。幹部連中は反対しました。中本はもともと、各方面に関係してる社長のところへ親しく出入りしてる男だということが、周知の事実であり、そこから或る疑惑が起りました。また、折角の製品が、中本の手に渡れば、露店の闇商人などにばらまかれる恐れがありました。また、物々交換となれば、会社の保有現金についての不安もあり、それは直ちに従業員全体の懐に影響しますし、且つ、交換の価格比率についての不安もありました。