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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

「ええ。家内と娘はそこへ疎開させますが、私はちょッと遠いものですから」

亮作は家庭の不和を隠していた。誰にも知られたくなかったのである。

「遠いッたって、なんですか。持久戦ですよ。物資のあるところに限りますぜ。こんな小ッポケな工場を持ったおかげで、私なんか身動きができないから哀れですよ。田舎へひッこんで、新鮮なものをタラフク食べて、忙しい思いを忘れたいですよ」

「実はお宅の伊東の別荘の片隅をかしていただけたらと、あつかましいお願いなんですが」

思いがけない申出に、野口の微笑が一時に消えた。やがて苦笑して、首を横にふった。

「御依頼に応じかねますな。たった四間の掘立小屋ですよ。ウチの家族だけで、はみだしてしまいますよ」

「軽井沢でも結構ですが」

「あれは人に貸しています」

野口は嘘をついた。

彼は軽井沢と伊東に別荘を持っていた。それは彼の多年の夢想であった。夏は北方の山荘に暑気をさけ、冬は南海の別荘に正月をむかえる。

その夢が手ごたえもなく実現してしまったのだった。

軽井沢は住みてを失い安値に売りにでたのを買ったもので、中流の立派な別荘であった。

伊東には手ごろの別荘の売物がなかったが、温泉のでる土地を買った。