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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

しかし、今となっては、生き残った恐怖の方が、まだひどかった。

「私に鶏小屋をかして下さい。私は、すべてのものを失いました。私はバカでした」

亮作は、はげしく、しゃくりあげて、叫びつづけた。

「私をひとりぼっちにしないで下さい。お願いです。考えただけで、息がとまってしまいます。下男でも作男でも、なんでもします。伊東へつれてって下さい。鶏小屋へ住ませて下さい」

野口の子供たちは、あきれて、目をそらした。

「あなたはフトンも衣類も疎開しなかったのですか」

「いえ、私は、いらないのです。私はひとりぼっちが怖しいのです。夜露をしのぐ屋根さえあれば、たくさんなんです。こんな怖しいところへ、私を見すてないで下さい」

「むろん助け合うことは必要です。しかし、奥さんの疎開先へいらしたら、どうですか。あなたは逆上して、いろんなことを忘れてらッしゃるようですね。屋根だけじゃありませんよ。フトンも、鍋釜もある筈ですよ。奥さんが待っておられますよ。心配しておられるでしょう」

「いえ、私は働かねばなりません。社長に見放されては、生きることができません」

「私の工場は焼けました。伊東にはチッポケな家があるだけです。