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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

ちょッとオドオドしてはいたが、いつもするような薄笑いの翳はなかった。

「五千円で買ったら、あなたは今日中に立退きますか。いえ、今日中に立退いて下さい」

「今日中はムリですよ。先日来、駅との談合で、明朝荷物を送りこむ手筈になってるのです。用意はできていますから、明日の午後、立退きましょう」

「きっとですね」

「むろん、まちがいはありません。それで、あなたは、いつ五千円下さるのです」

「あなたの立退きとひき換えに」

「いえ、いけません。もしもあなたの気持が変ると、私は出発をのばして、買い手を探さねばなりません。私が怖れているのは、疎開の時間がおくれることです。いま、五千円、いただきましょう」

「いえ、それは片手落です」

「おかしいですね。あなたにとっても今日中に一時も早く登記の手続をすませることが大切ですよ。すると、もう、あなたはここの所有者で、安心してよろしいのですよ」

こうして野口の別荘は亮作のものになった。

翌日、野口は荷物を駅へ送りこみ、クワ、鎌、鉈、スコップなど野良道具をぶらさげてきて、

「一式百円で買いませんか。大工道具一式、左官のコテまで揃ってますぜ。御不用なら、駅前でセリで売りますがね」