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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
そこで彼等は、再び負傷か、でなければ、黒龍江を渡って橇で林へ運ばれて行く屍の一ツにならなければならないのだ。それは、堪え難かった。彼等は、知らず識らず傷をひどく見せ、再び役には立たん人間のように軍医に見せようと努めた。
軍医は、診断にやって来る兵士が、どれもこれも哀れげな元気のない顔をしているのを見た。
「私は、内地へ帰らして下さい!」
その眼は、純粋な憐れみを乞うていた。
「どうだ、もう並食を食うとるんだろう?」
軍医は、上唇を横にかすり取られた幼なげな男に、こうきいた。
「はい。」
「どれ、口を開けてごらん?」
この男は、アングリ口を開けて見せた。
「よし! もうよくなっとるね。」
そして、彼は、診断室を出て行くように、合図に手を動かした。その男は「よし」という声で中隊へかえされると感じて、
「私は、いつ、再び弾丸が降って来る下へ追いやられるような悪いことをしたんです!」
と、子供らしい眼で訴えた。そして、そこら中を見まわした。軍医の表情には冷たい、固いものがあるばかりだった。
その少年は、もう一度、上唇のさきが無くなった口を哀れげに拡げた、
「こんなにおとなしい無抵抗な者を殺してもいゝんですか!」