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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
平気でねているのは、片脚を切断した福島と、どうせ癒る見込みがない腹膜炎の患者だけであった。
電燈がついてから、看護長が脇の下に帳簿をはさんで、にこ/\しながら這入って来た。その笑い方は、ぴりッとこっちの直観に触れるものがあった。看護長は、帳簿を拡げ、一人一人名前を区切って呼びだした。空虚な返事がつづいた。
「ハイ。」
「は。」
「は。」
呼ばれた顔は一ツ一ツ急にさッと蒼白になった。そして顔の筋肉が痙攣を起した。
「ハイ。」
栗本はドキリとした。と、彼も頬がピク/\慄え引きつりだした。
「今、ここに呼んだ者は、あした朝食後退院。いゝか!」
同じように、にこ/\しながら看護長は扉を押して次の病室へ出て行った。
結局こうなるのにきまっていたのだ。それを、藁一本にすがりつこうとしたのが誤っていたのだ。栗本は、それが真実だと思った。病院は負傷者を癒すために存在している。負傷者を癒すと弾丸がとんでいるところへ追いかえすのだ。再び負傷すると、またそれを癒して、又追いかえすだろう。三回でも、四回でも、五回でも。
一つの器械は、役に立たなくなるまで直して使わなければ損だ。それと同じだ。