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ひょうが

氷河

黒島 伝治

1928(昭和3)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页

青空文庫

ソビエットを守るパルチザンの襲撃は鋭利になりだした。日本の兵士は、寒気のために動作の敏活を失った。むくむくした毛皮の外套を豪猪のようにまんまるくなるまで着こまなければならない。左右の手袋は分厚く重く、紐をつけた財布のように頸から吊るしていなければならない。銃は、その手袋の指の間から蝋をなすりつけたようにつるつる滑り落ちた。パルチザンはそこへつけこんできた。

兵士達は、始終過激派を追っかけ、家宅捜索をしたり、武器を押収したり、夜半に叩き起され、やにわに武装を整えて応援に出かけたりしなければならなかった。鉄道沿線へは多くに分れて小部隊が警戒に出かけた。栗本の中隊は、汽車に乗ってイイシの警戒に出かける命令を受けた。汽車には宵のうちから糧秣や弾薬や防寒具が積込まれた。夕闇が迫って来るのは早く、夜明けはおそかった。

栗本は、長い夜を町はずれの線路の傍で、幾回となく交代しつゝ列車の歩哨に立った。朝が来るのを待って兵士達は、それに乗りこんで出発するのだ。寒気は疼痛をもって人に迫ってきた。警戒所でとった煖炉の温度は、扉から出て二分間も歩かないうちに、黒龍江の下流から吹き上げて来る嵐に奪われてしまった。