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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

町が東と西とになっていたのよ、その紅梅町っての! いいえ、ただ紅梅町だけですって云うと、巡査ったら、ニヤニヤ笑うのよ、あなた。そして、何番地かって。千六十九番地ですって云うと、そんな番地どこにもありゃしないってんですもの、私――」

志野は、

「ああ、思い出しても厭んなっちゃう」

と吐息をついた。

「でもね、今中さんてお産婆さん、親切だったから私助かったのよ、ひょいと看板を見て入ったんだけど。……そのお婆さんがここを知っててね、それで私来るようになった訳なのよ、実は――」

房は、その辺まで律に聞かされていた。その時から、彼女の気になっていることが一つある。房は、低い声で訊いた。

「――そいで――どうしたの――その生れた……」

「ああ」

志野は、早口でさも事なげに答えた。

「一週間ばかりで死んじゃったわ」

それをきくと、房は何故だかぞーッとした。

五

「ねえお志野さん」

或る夜、房はしみじみと云った。

「――あなた……いつまで今の局にいる積り?」

志野は、罪のない訝しげな表情で房を見た。

「何故?――いきなり……」

「――いい加減にして国へお帰んなさいよ」